2007年11月13日火曜日

ソケリッサ!!

「少しだけゆれる道」

この言葉で動きをイメージしてください。

あるダンサーはこの言葉を聞くと、ぼんやり前を見た後、
上空を見上げ数秒。そして子供がする「前に習え」のように手を差し出し、
その手を小刻みに揺らしました。

「少しだけゆれる道」は自分がもたもたと
自転車に乗って走っている姿を想像して、
ふと浮かんだ言葉ですが、ダンサーの動きには
自分のイメージを超えた広がりがありました。


■言葉で振り付け
現在、自分はホームレス境遇のおじさん達と「ソケリッサ!!」
という舞台作品を制作しています。
6名のホームレスのおじさん達と自分が踊りを主体とした舞台作品で
肉体表現をするというものです。

ここではソケリッサ!!での踊りの創りかたについてお話しします。

まず一口に振り付けと言っても、振り付けるタレント、
発表するメディアや舞台など、内容や状況次第でそのやり方は異なります。
ホームレスという境遇、路上という生活状況、
それに伴った肉体の状況、思考。
そこには世間で日常目にする表現とは、
違ったものが見えてくるはずです。

自分は言葉を用いた振り付けを一つの手段として取り入れました。
おじさん達に言葉を投げかけ、彼らがその言葉のイメージから
作り出す動きを、自分が広げるというやりかたです。

それぞれの素材(ホームレス境遇のおじさん達)が持ち合わす
いわゆる人間力を生かします。



「形」を振り付ける、「形」にはめ込むことで、
ホームレスという一つのカテゴリーに入れられたイメージ、
つまり自分の意図とは違った意味が強く見えてしまうことを案じて
この手法をとることにしました。

簡単に言えば、言葉を用いた振り付けの方が
今回のテーマは伝わりやすく、
おまけにじっくり観やすいと感じたからです。

ソケリッサ!!に出演するホームレス境遇のおじさんは6名、
年齢30代~60代後半。

それぞれに歴史もあります。

内にある想像力は果てしなく自由であり、
非常に複雑かつシンプルだと思います。
技術ではないおじさん達の表現のなかには、
それぞれの歴史や現状がふわふわ浮かんできます。

一心に自分の動きを言葉のイメージに近づけようとする
おじさん達の姿。骨格や、肌の質感や、
指先が無骨に動きゆれる姿。そこに浮き上がり見えてくる何か…。
自分はそれを美化するでもなく、
ただリアルな人間を見て欲しいと思っています。

少しだけゆれる道 闇の音楽 くらしのリズム 
最初に錆びる 天井なみだ 食パンベッド 怒るアリ…

言葉を投げかけると、おじさん達は予想以上に抵抗無く動きます。
このくらいはどうってことのない、という顔で…。

ソケリッサは来年3月の本番に向けて練習、
準備が進行中です。今後も状況を伝えていきます。


■ロボットと共演
現在もう一つ創っているものがあります。
「架蜉架 KAFKA」というパフォーマンスで、出演は自分とロボットです。



自分とロボットがお客さんの前でパフォーマンスを行いますが、
あくまでもロボットは象徴的な存在感であり、
そこに対しての人間の姿を観て、何が見えてくるのか…。

架蜉架には演出家がいるので、
振り付けに関しては僕と彼の共同作業ではあります。
演出の石川ふくろう氏は動きのイメージを提示し、
自分は前後での感情の流れや状況を踏まえて動き、
試行錯誤を繰り返しながら振りをつくりあげていきます。

こちらの作品、大まかな段取りは決まっていますが、
動きの半分は即興的なもので、練習での踊りは毎回違ってきます。

通常、ふくろう氏のロボットは錆び付いていたり、
流木を使用したり、趣のあるものばかりですが、
今回のロボットは錆びつきもなく金属的です。

そのロボットと毎回始めて会った感覚を要して練習に臨みます。
その日の体調や、気分でも差は出て来ます。

これも振り付けの一手段です。

今回は架蜉架の制作風景の映像を公開します。
見てわかると思いますが、今回のロボットは
人間の便宜性を追及したものではなく、
機能上では人間に対して無意味な存在です。


世の中が便利になっても、
幸せそうな顔があまり増えてない気がします。
環境に慣れていくのですかね…



人間のためにならないロボットこそ、
人間のためになる、そんな未来を目差して・・



今日はここまで。




※1
ソケリッサは「前進する」といったイメージの造語です。
町の片隅で背を丸めて寝ているホームレス境遇者が、現状とは逆に、ライトを浴び人前に立ち表現をする姿を見たい。又、一人の表現者として、自分がこの人達と同じ舞台に立ったときの存在の仕方はどうなるのかみたい。 こんな思いから始まったこの企画は今年の1月に第一回公演を終え、現在、来年3月の第二回公演に向け制作進行中です

※2
「架蜉架 KAFKA」
作・演出・装置:石川ふくろう
身体表現:アオキ裕キ
映像:新堀孝明
音:クリストフ シャルル

● 日時:2007年12月13日(木) 18:00-19:00
  ( ネットライブ生中継予定 http://www.netlive.ne.jp/
● 会場:武蔵野美術大学12号館1階103 ビデオアトリエ
● 入場料:無料

問い合わせ先:映像学科研究室
TEL 042-342-6070
FAX 042-342-5175
担当 教授:クリストフ シャルル、助手:長井勇

※宮崎による代理投稿。執筆はアオキ裕キ

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