2007年12月12日水曜日

風のあし

「ソケリッサ」(※1)の出演メンバーは7人になりました。
現在は、土曜日毎にスタジオに集まり練習を行っています。

練習前にはストレッチは欠かしません。
平均年齢50才~60才、同年代のいわゆる一般社会人の
おじさんと比べると路上生活では、はるかに状況は悪く、
ゆがみもあります。

いくら良い作品を創り上げても、
おじさん達が死んでしまってはどうしようもない訳で、
せっかくなら健康体にもなり、すべてにおいて
良い状況になる事が望ましい。

中でもダントツの症状はむくみで、
正座が出来ないメンバーもいます。
どうやら長時間同じ姿勢でいることにより
血の流れが悪くなっている状況でのようです。

もちろん食生活のバランスも影響しているでしょう。

しかしながら、そのような状況にありながらも、
驚くことは皆とにかくタフということです。
身体はゆがみやむくみに苛まれているにもかかわらず・・

ガリガリに痩せている路上生活のおじさんが少ないのも、
痩せないよう無意識に生命力の働きが、
脂肪や糖質を多めに蓄えようとしているかもしれません。

人間の生命力は、想像以上にすざましいかもしれません。

安泰な生活では、人間の進化も当然うとくなり、
最近の世の中の状況を併せ考えれば、
もはや未来に向けて退化の道を辿っている気がします。

ホームレス状況を肯定しているのではなく、
あくまでもバランスだとは思いますが・・



とにかく追い込まれた状況に発揮した力(生まれでた直感)
は揺ぎ無い魂の叫びそのものです。
それは動物的な瞬間であり、ある意味生きている実感といえます。



前回も触れましたが、「カフカ」(※2)という作品の本番が間近になり、
ロボット(機械)と人間(生身)の、距離を著しく痛感しています。

操作どうり動くロボットに、人は、近づこうと努力を重ねます。
人は自身に欠けている部分を修正し、完璧になるべく努力を重ねるのです。

しかしそこには途方も無い距離が存在するのです。

前回の「ソケリッサ」のメンバーのおじさん一人、
なんと本番5日前にいなくなってしまいました。
ここではその行動の良し悪しの問題は触れませんが、
昔からふらっと幾日か放浪する事が度々あったようでした。
本番幾日後ひょっこり帰ってきたそのおじさんに、
何をしていたか尋ねました。

聞くところによると、鎌倉までイルカを見に行っていたそうです。
もちろん水族館ではなく海に行き、イルカを見ようとしましたが、
鎌倉の海では目的は果たせなかったとのことでした。


自分が驚いたのは次です、

新宿住まいのおじさんは、
鎌倉までの往復を”歩いた”ということです。
電車賃がかかる問題もありますが、
本人は”歩きたかった”ということでした。



現在は福島県の兄弟の元に暮らしています。



もちろん歩いて帰ったそうです。


とにかく歩くことで感じることは距離です。
目的地までの距離を、
己の身を持って感じることが出来ます。


おじさんは距離を感じたかったのかも知れません

イルカとの距離

兄弟との距離

もちろんあくまでも推測ですが




この話おまけがあります。

そのおじさんの振付時、自分はたまたまこう言いました。
「ミライに進んでください」
「過去に進んでください」

おじさんはどちらも同じ、
その場で足踏みを繰り返しました。

偶然かもしれませんが、今になって考えると、
「人間はミライに進みながら、退化をしていく・・」

その表現にも感じられます。

もちろん本人はその場での感覚表現であると思いますが、
舞台の上で才能を披露出来ずに終わってしまいました。




いつかは又一緒に踊る機会があればいいと思っています。





・・では今回はこの辺で

※1
ソケリッサは「前進する」といったイメージの造語です。
町の片隅で背を丸めて寝ているホームレス境遇者が、
現状とは逆に、ライトを浴び人前に立ち表現をする姿を見たい。
又、一人の表現者として、自分がこの人達と
同じ舞台に立ったときの存在の仕方はどうなるのかみたい。
こんな思いから始まったこの企画は今年の1月に第一回公演を終え、
現在、来年3月の第二回公演に向け制作進行中です


※2
「架蜉架 KAFKA」
作・演出・装置:石川ふくろう
身体表現:アオキ裕キ
映像:新堀孝明
音:クリストフ シャルル

● 日時:2007年12月13日(木) 18:00-19:00
  ( ネットライブ生中継予定 http://www.netlive.ne.jp/
● 会場:武蔵野美術大学12号館1階103 ビデオアトリエ
● 入場料:無料

問い合わせ先:映像学科研究室
TEL 042-342-6070
FAX 042-342-5175
担当 教授:クリストフ シャルル、助手:長井勇

※宮崎による代理投稿。執筆はアオキ裕キ